ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
1.AIで契約書を作れる時代に、なぜ「しっくりこない契約書」ができるのか
「契約書って、どうやって作っているんですか?」
経営者の方や、士業の方とお話ししていると、こう聞かれることがあります。
もう少しくだけた言い方をすると、
「結局、どこかのひな形を持ってきて、ちょっと直しているんですか?」
という質問です。これは、半分当たっていて、半分違います。
たしかに、契約書を作るときに、既存のひな形や過去の契約書を参考にすることはあります。
最近であれば、生成AIに契約書のたたき台を作ってもらうこともできます。
ただし、ここで注意が必要です。
ひな形やAIが出してくる契約書は、一見すると整って見えます。
条文も並んでいる。秘密保持、解除、損害賠償、管轄裁判所も入っている。
何となく、それっぽい。
でも、実際に読んでみると、
- うちのビジネスと合っていない
- お客さんに説明すると突っ込まれる
- 現場でこの通りには動けない
- そもそも、なぜこの条項が入っているのか分からない
ということがしばしば発生します。
なぜ、こういうことが起きるのでしょうか。
それは、契約書づくりを「ひな形探し」から始めてしまうからです。
2.契約書は3つの部品でできている
契約書は、一見、難しく見えます。
売買契約書、業務委託契約書、金銭消費貸借契約書、ライセンス契約書、秘密保持契約書など、名前もたくさんあります。
しかし、大きく見ると、契約書はかなりシンプルです。
多くの契約書は、次の3つの部品でできています。
| 構成 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| 目的規定 | なぜこの契約を結ぶのか | 目的、背景、取引の趣旨 |
| 契約類型特有の規定 | その取引特有のルール | 業務範囲、納期、検収、報酬、返済条件、成果物 |
| 一般規定 | 多くの契約に共通するルール | 秘密保持、解除、損害賠償、譲渡禁止、反社、管轄裁判所 |
たとえば、全15条くらいの契約書があった場合、そのうち半分以上は、秘密保持、解除、損害賠償、管轄裁判所などの一般規定であることも珍しくありません。
つまり、契約書のかなりの部分は、共通部品です。
大事なのは、残りの部分です。
- なぜこの契約を結ぶのか
- この取引では、誰が何をするのか
- どこまでが業務範囲なのか
- どこでお金が発生するのか
- どこで揉めそうなのか
ここを、自社のビジネスに合わせて組み立てる必要があります。
契約書は、ひな形にビジネスを押し込むものではありません。
目の前のビジネスを観察し、必要な条項を部品のように組み立てるものです。
3.「業務委託契約書のひな形」にビジネスを無理やり当てはめる
よくある”失敗”が、これです。
「業務委託だから、業務委託契約書のひな形を使おう」
「制作物を納品するから、請負契約っぽいひな形でいいだろう」
「AIに“当社に有利な契約書を作って”と頼めばいいだろう」
もちろん、出発点としてひな形を使うこと自体が悪いわけではありません。
問題は、ひな形を正解だと思ってしまうことです。
現実の取引は、意外と単純ではありません。
- 制作だけでなく、運用もある
- 納品だけでなく、保守もある
- 売買だけでなく、設置作業もある
- 請負のようで、継続的な相談対応もある
- 成果物の権利関係が重要になる
- 資料提供や承認が遅れると、納期にも影響する
こうした現場の事情を見ないまま、一般的なひな形に当てはめると、見た目は契約書でも、実務では使いにくい契約書になります。
一番やってはいけないのは、目の前のビジネスを、既存のひな形に無理やり当てはめることです。
4.契約書づくりは、ビジネスの文字起こしである
私の感覚では、契約書づくりとは、ビジネスの文字起こしです。
目の前で起きている取引を観察して、
- 誰が
- 誰に
- 何を
- いつまでに
- いくらで
- どの品質で
- どこまでやるのか
- できなかったら、どうするのか
- 追加になったら、どうするのか
- 途中でやめるときは、どうするのか
これを、法律文書として整理していく作業です。
ここを飛ばして、いきなり契約書のひな形を探すと、どうしてもズレます。
AIも同じです。AIは、契約書のたたき台を作ることは得意です。
一般的な条項を整理することも得意です。条文の言い換えや比較も得意です。
ただし、AIは、こちらが説明していない自社の商売のリアルまでは分かりません。
- どこで利益が出ているのか
- どこで赤字になるのか
- どこで現場が詰まりやすいのか
- どの作業が追加費用になりやすいのか
- お客様との関係で、どこまでなら飲めて、どこからは譲れないのか
これは、本稿執筆時点では、人間側が言語化しないと、AIにも反映されません。
したがって、AI時代の契約書づくりで大事なのは、
AIに契約書を丸投げすることではなく、AIに渡す前に自社のビジネスを言語化することなのではないかと思われます。
5.ひな形に当てはめるとズレる契約書
たとえば、ホームページ制作の契約を考えてみます。
「ホームページ制作業務一式」とだけ書かれていたら、一見シンプルです。
しかし、実務ではすぐに問題が出ます。
- 原稿作成は含むのか
- 写真撮影は含むのか
- 修正は何回までか
- 公開後の保守は含むのか
- サーバー設定は誰がやるのか
- SEO対応はどこまでやるのか
- 途中でページ数が増えたら追加費用になるのか
ここを決めないまま契約書を作っても、トラブルの一歩手前で役に立ちません。
また、システム開発でも同じです。
単に「システム開発業務」と書いても、要件定義、設計、開発、テスト、運用、保守、追加改修では、必要な条項が変わります。
売買契約でも、単に商品を売るだけなのか、設置作業や初期設定、保守対応まで含むのかで、契約書の作り方は変わります。
つまり、契約書名だけでは決まりません。
「これは業務委託契約だから」
「これは売買契約だから」
という名前から入るのではなく、実際に何が起きている取引なのかを見る必要があります。
契約書は、名前で作るのではありません。取引の中身から作るものです。
6.対応策|契約書は「部品加工・組み立て加工」で作る
では、どう作ればよいのか。イメージとしては、契約書を部品加工・組み立て加工のように考えると分かりやすいです。
まず、目的を決める。
- この契約は、何のために結ぶのか
- 継続的に商品を供給するためなのか
- 制作物を納品するためなのか
- 専門的な支援を受けるためなのか
- 代理販売をしてもらうためなのか
- 秘密情報を開示するためなのか
次に、取引の型を分解する。
- 売買なのか
- 請負なのか
- 準委任なのか
- ライセンスなのか
- 代理なのか
- 媒介なのか
- 保守・運用なのか
実際のビジネスでは、これらが混ざっていることも多いです。
そのうえで、必要な条項を選びます。
- 業務範囲
- 納期
- 検収
- 報酬
- 追加作業
- 資料提供
- 協力義務
- 知的財産権
- 中途解約
- 秘密保持
- 損害賠償
- 管轄裁判所
こうした部品を、自社のビジネスに合わせて組み立てていく。
AIを使うなら、この段階で使うと効果的です。
たとえば、次のように頼むとよいです。
以下の取引内容を前提に、契約書の構成案を作成してください。
1.この契約の目的
2.この取引に特有の条項
3.多くの契約書に共通する一般規定
4.発注者側に有利な点
5.受注者側に有利な点
6.現場運用上、確認すべき点
の順番で整理してください。
なお、既存のひな形に無理やり当てはめるのではなく、取引実態から必要な条項を洗い出してください。
AIにいきなり「契約書を作って」と頼むより、まず構成案を作らせる。
これだけでも、契約書づくりの精度はかなり変わります。
7.まとめ|ひな形ではなく、現実から契約書を作る
契約書は、ひな形に自社のビジネスを押し込むものではありません。
自社のビジネスを観察し、言語化し、必要な条項を組み立てるものです。
AI時代の契約書づくりで大事なのは、AIにきれいな契約書を出してもらうことではありません。
自社のビジネスを言語化し、そのビジネスに合う契約書の構成を設計することです。
契約書は、ただ単にハンコを押すための紙ではありません。
自社の商売の特徴を反映し、現場で使える共通ルールにするための文書です。
ひな形という色眼鏡をいったん外して、目の前の現実を見る。
そこから契約書を組み立てる。
この視点を持つだけで、契約書づくりはかなり変わってくるはずです。

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🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
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【執筆者】
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