ビジネス法務

登記簿上の住所と実際の事務所住所が違う場合、契約書はどうする?

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

今回は、契約書作成の実務において意外とよくある相談、
「登記簿上の本店所在地と実際の事務所住所が異なる場合、契約書にはどう記載すればよいか?」
というテーマについて、最新の法令や社会情勢を踏まえて詳しく解説していきます。

法人(株式会社や合同会社など)は、設立登記の際に「本店所在地」を登記します。
これは、法的にその法人の住所を示す公式な情報です。

ポイント

  • 商業登記簿に記録される
  • 官公庁への届け出や、訴訟の際の送達先にもなる
  • 会社の「住所証明」として機能する

つまり、本店所在地はその法人の「戸籍上の住所」のような役割を果たします。

たとえば、次のようなケースです。

  • 最初は自宅を本店登記していたが、事業拡大に伴いオフィスを借りた
  • ベンチャー企業が、郵便物受領だけ本店住所にして、実質の業務は別の事務所で行っている
  • 本店は管理部門だけ、営業部門は別の場所にある

このように、「登記上の本店」と「実際に働いている場所(主たる事務所)」が異なることは、ビジネス実務では珍しくありません。

結論からいうと、
✅ 原則は登記簿上の本店を記載すべきですが、「実際に働いている場所(主たる事務所)」を記載してOKです。

つまり、実際に取引を担当する部署や社員が所在するオフィスの住所を書いても差支えありません。

■ 理由

  • 契約は当事者間の合意で成立するため、法律上「必ず本店所在地を書かなければならない」という義務はありません。
  • 郵便物や通知のやり取り、実際の業務に支障がないことが重要です。

契約相手や契約内容によっては、登記簿上の住所を求められる場合もあります。

たとえば…

  • 上場企業、大企業との取引
  • 官公庁との契約
  • ファイナンス契約(融資、リース契約など)

これらの場合、法人格の特定を厳格に行う必要があるため、「登記簿上の本店所在地」を契約書に記載するよう求められることがあります。

✅ 対応策

このような場合は、次のように記載します。

【例】
東京都千代田区〇〇町〇丁目〇番〇号
(本店所在地:埼玉県さいたま市〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号)
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇〇〇

つまり、「実際の住所」と「本店所在地」の両方を併記する形です。
これにより、契約上の利便性と法的な法人特定の正確性を両立できます。

実務上、契約書に記載する住所と登記簿上の住所が異なる場合、
契約相手にその旨を事前に説明しておくと安心です。

なぜなら、契約締結後に…

「あれ?登記簿の住所と違うけど、本当にこの会社で大丈夫?」

と疑念を持たれてしまうと、余計な信用リスクや手間が発生するからです。

事前説明のポイント

  • どちらも正当な住所であること
  • 実務上は主たる事務所で問題ないこと
  • 相手の意向があれば登記簿上の住所を記載する柔軟な対応が可能であること

あまりに実態とかけ離れている場合、将来的なリスクもあります。

■ たとえば

  • 債権回収時、送達不能になる
  • 会社の信用情報に不信感を持たれる
  • 許認可の更新時に不利益を受ける可能性

✅ こうしたリスクを回避するためにも

本店移転登記(商業登記簿の変更手続)を検討しましょう。

【本店移転登記のポイント】

現実と登記情報の整合性をとることは、長期的な視点で考えるとメリットになり得ます。

最後に、今回のポイントをまとめます。

原則注意点
記載住所実務上の事務所住所でOK相手や契約内容によっては本店所在地を求められることも
事前説明しておくとベタートラブル防止、信用向上につながる
登記変更必須ではないが推奨実態とずれているなら、早めの登記変更を検討

契約実務では「形式だけ合わせる」のではなく、相手との信頼関係と実務効率を考えた柔軟な対応が大切です。

【参考資料】

足下を固め、自分自身を守り、そして、「成し遂げたいこと」や「夢」の実現に近づけるための契約知識について、このブログや、音声配信「契約書に強くなる!ラジオ」でお伝えしていきますので、今後ともご期待、ご支援いただければ幸いです。

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最後まで、お読みくださりありがとうございました。

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